修理編 ポルシェデザイン P`3110 TecFlex (Repair Porsche Design P'3110 TecFlex)
新年あけましておめでとうございます!
本年も「文房具の虫」を宜しくお願い致します。
2015年一発目はポルシェデザイン P`3110の修理をネタにしたいと思います。
この万年筆は当ブログを通じてやり取りをさせて頂きましたYさんの万年筆です。
当ブログは2013年の1月にスタートしたのですが最初の記事がこのP`3110でした。
2015年の最初の記事もP`3110というのには、どこか縁のようなものを感じます。
P`3110についてYさんとメールで書き味等についての交流をしていた際
Yさんより「ペンの内部でインク漏れがする」という旨の話を聞いたのが始まり。
文虫も過去にこの初期型のP`3110で軸内が洪水になる同様のインク漏れ現象に遭遇。
Yさんに症状を伺うとほぼ同じだった為、これは!とピンときました。
おそらくペン芯のスリーブまわりが原因ではないかという事
そこでYさんからP`3110を一度お預かりして、文虫が修理をさせて頂く事に。
まずはスリーブを固定しているパーツを適当に治具を使って分解し、スリーブを取り出します。
溢れたインクがスリーブ外部に大量に漏れ出していた形跡が見えます。
そして主軸からニブユニットを外した時点で異常な状態である事に気がつきました。
ニブとペン芯がちょっとグラグラしているのです。
とりあえずぬるま湯で洗浄した後ニブとペン芯を取り外してみると・・・
ペン芯がポッキリ折れているではありませんか・・・
そりゃ内部で洪水をおこすわけです。
文虫の場合はスリーブにクラックがはいってインクが
漏れ出していたのですがこちらはちょっと違いましたね。
しかしスリーブやペン芯にダメージが発生したメカニズムは恐らく同じで
構造上、胴軸を首軸に取り付ける際に強く締め付けるとスリーブが内部に
引っ張られてスリーブが裂けるかペン芯がちぎれるかのどちらかと思います。
(文章だと表現が難しい!)
念の為スリーブにもクラックがないか丁寧に洗浄しながらチェックします。
スリーブは健康そのものでした。クラックがはいるとしたら写真右側のネジ山の
付け根部分が怪しく、文虫の場合は付け根付近がまるっと円を描くように割れてました。
通常ペン芯が死んだ場合はニブユニットをまるごと交換するのがメーカー的には
普通ですが、そうなると部品+工賃で新品に手が届くよう金額を請求されかねません・・・
そこで折れたペン芯を接着してなんとか復活させる事にします。
簡単に復活させるといっても以下を考慮しなくてはいけません
・毛細管現象を阻害しない事
・引っ張り負荷に耐える事
・隙間ができない事
溶剤タイプの接着剤は部位を溶かしてしまいます。
これでは接着部付近の形状が変化する為アウト!
強度面でも厳しい気がします。
アロンアルファのようなものだと強度はでますが、部位付近が
白化する為、確実にインクフローに悪影響を与えます。
見た目にも悪いです。
そして接着部位に柔軟性がないのがNG
これらを考慮するとベストなのは溶かさず強度もあり、隙間を充填してくれる
エポキシ硬化樹脂をごく僅かにはみ出す程度で塗布し接着。
硬化後にリューターやスパチュラを使用して部位の整形を行うのがベストだと
判断しました。
ペン芯に樹脂を塗布後、スリーブを利用して硬化させます。
塗布量や位置をに気をつけないとはみ出た樹脂がスリーブと
ひっついてしまい破壊しない限り二度とペン芯がとれなくなります(笑)
かといってスリーブを利用せずに接着する場合、ペン芯の軸が歪んだり
ズレたりで、まっすぐスリーブに収まらない可能性もでてきます。
無事に硬化が完了して、引っ張ったり曲げたりしてみても問題なしです。
中央部の欠けは隙間ができそうなったのでごく少量のパテを使用しました。
リューターとスパチュラで整形してほぼ完璧な姿に戻ったと思います。
欠けている部分も樹脂が充填されてから整形している為、肉眼では
殆どわからないくらいにはなったかなと。
流れとしては パテ→乾燥→整形→エポキシ樹脂→硬化→整形
ペン芯が復活したのでインクフローに問題がないかチェックしました。
水を一滴たらしてちゃんとペン芯の先までくるかテスト。
接着部も問題なく、水が通過して写真の通りキレイにペン芯の先まできました。
無事ペン芯の修理も完了して組み上げるだけですが
せっかく分解したので最後にひと手間だけ加えました。
かじり防止用のスレッジグリースをスリーブに塗布しておきます。
ねじが緩み難くなりますので締め付けトルクが少々弱めでもOKです。
緩める場合も強い力は必要無いので次回メンテをする際もスリーブを
壊してしまうリスクを下げれます。
このひと手間で、インクが原因のネジ山の固着も防止できます。
液体ガスケット的なシール効果も生まれるのでスリーブ外周からの
インク漏れも防止できます。
古典インクの酸化や腐食の影響からネジ山を守る事にもなります
ので利点が多いですね。
万年筆も文房具である前にひとつの工業製品なので
こういう機械屋さん的なノウハウも意外と共通なんですね。
もしP`3110を使用しており、かつ初期型の場合はペン芯、スリーブの破損対策として
①インク補充などの際に胴軸を必要以上に強く締め付けない
②スリーブのネジ山及び固定金具のねじ山にスレッドコンパウンドなどを塗布しておく
上記2点がオススメです。
ただし②は分解する必要がある為、保障を失うリスクがあります。
初期型のP`3110でもしインク漏れがあった場合は既に破損している可能性が高く
胴軸を強く締め付けるのはダメージの拡大させるのでNG
その場合はお店に持ち込みで修理を依頼するが無難かと。
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本年も「文房具の虫」を宜しくお願い致します。
2015年一発目はポルシェデザイン P`3110の修理をネタにしたいと思います。
この万年筆は当ブログを通じてやり取りをさせて頂きましたYさんの万年筆です。
当ブログは2013年の1月にスタートしたのですが最初の記事がこのP`3110でした。
2015年の最初の記事もP`3110というのには、どこか縁のようなものを感じます。
YさんのP`3110 TecFlex |
P`3110についてYさんとメールで書き味等についての交流をしていた際
Yさんより「ペンの内部でインク漏れがする」という旨の話を聞いたのが始まり。
文虫も過去にこの初期型のP`3110で軸内が洪水になる同様のインク漏れ現象に遭遇。
Yさんに症状を伺うとほぼ同じだった為、これは!とピンときました。
左が後期型 右が初期型 ニブやキャップのデザインに違いがあります インク漏れをするのは初期型 |
おそらくペン芯のスリーブまわりが原因ではないかという事
そこでYさんからP`3110を一度お預かりして、文虫が修理をさせて頂く事に。
- インク漏れの原因は?
まずはスリーブを固定しているパーツを適当に治具を使って分解し、スリーブを取り出します。
インク漏れの為スリーブが汚れています |
溢れたインクがスリーブ外部に大量に漏れ出していた形跡が見えます。
そして主軸からニブユニットを外した時点で異常な状態である事に気がつきました。
ニブとペン芯がちょっとグラグラしているのです。
とりあえずぬるま湯で洗浄した後ニブとペン芯を取り外してみると・・・
あちゃー! |
ペン芯がポッキリ折れているではありませんか・・・
そりゃ内部で洪水をおこすわけです。
文虫の場合はスリーブにクラックがはいってインクが
漏れ出していたのですがこちらはちょっと違いましたね。
しかしスリーブやペン芯にダメージが発生したメカニズムは恐らく同じで
構造上、胴軸を首軸に取り付ける際に強く締め付けるとスリーブが内部に
引っ張られてスリーブが裂けるかペン芯がちぎれるかのどちらかと思います。
(文章だと表現が難しい!)
念の為スリーブにもクラックがないか丁寧に洗浄しながらチェックします。
キレイに洗浄して細かくチェック! |
スリーブは健康そのものでした。クラックがはいるとしたら写真右側のネジ山の
付け根部分が怪しく、文虫の場合は付け根付近がまるっと円を描くように割れてました。
- ペン芯の修理
通常ペン芯が死んだ場合はニブユニットをまるごと交換するのがメーカー的には
普通ですが、そうなると部品+工賃で新品に手が届くよう金額を請求されかねません・・・
そこで折れたペン芯を接着してなんとか復活させる事にします。
2液混合タイプのエポキシ硬化樹脂を使用 |
簡単に復活させるといっても以下を考慮しなくてはいけません
・毛細管現象を阻害しない事
・引っ張り負荷に耐える事
・隙間ができない事
溶剤タイプの接着剤は部位を溶かしてしまいます。
これでは接着部付近の形状が変化する為アウト!
強度面でも厳しい気がします。
アロンアルファのようなものだと強度はでますが、部位付近が
白化する為、確実にインクフローに悪影響を与えます。
見た目にも悪いです。
そして接着部位に柔軟性がないのがNG
これらを考慮するとベストなのは溶かさず強度もあり、隙間を充填してくれる
エポキシ硬化樹脂をごく僅かにはみ出す程度で塗布し接着。
硬化後にリューターやスパチュラを使用して部位の整形を行うのがベストだと
判断しました。
硬化中 |
ペン芯に樹脂を塗布後、スリーブを利用して硬化させます。
塗布量や位置をに気をつけないとはみ出た樹脂がスリーブと
ひっついてしまい破壊しない限り二度とペン芯がとれなくなります(笑)
かといってスリーブを利用せずに接着する場合、ペン芯の軸が歪んだり
ズレたりで、まっすぐスリーブに収まらない可能性もでてきます。
before 写真には写ってませんが断面の中心部分に欠けがあります (小さすぎてピント合わず) |
after 整形も完了してほぼ完璧 |
無事に硬化が完了して、引っ張ったり曲げたりしてみても問題なしです。
中央部の欠けは隙間ができそうなったのでごく少量のパテを使用しました。
リューターとスパチュラで整形してほぼ完璧な姿に戻ったと思います。
欠けている部分も樹脂が充填されてから整形している為、肉眼では
殆どわからないくらいにはなったかなと。
流れとしては パテ→乾燥→整形→エポキシ樹脂→硬化→整形
- 毛細管現象のテスト
ちゃんとスリットに水が昇ってきています |
ペン芯が復活したのでインクフローに問題がないかチェックしました。
水を一滴たらしてちゃんとペン芯の先までくるかテスト。
接着部も問題なく、水が通過して写真の通りキレイにペン芯の先まできました。
- 組み上げる前に
せっかく分解したので最後にひと手間だけ加えました。
ちょっとした手間で寿命が延びます |
かじり防止用のスレッジグリースをスリーブに塗布しておきます。
ねじが緩み難くなりますので締め付けトルクが少々弱めでもOKです。
緩める場合も強い力は必要無いので次回メンテをする際もスリーブを
壊してしまうリスクを下げれます。
このひと手間で、インクが原因のネジ山の固着も防止できます。
液体ガスケット的なシール効果も生まれるのでスリーブ外周からの
インク漏れも防止できます。
古典インクの酸化や腐食の影響からネジ山を守る事にもなります
ので利点が多いですね。
万年筆も文房具である前にひとつの工業製品なので
こういう機械屋さん的なノウハウも意外と共通なんですね。
- 防止対策として
もしP`3110を使用しており、かつ初期型の場合はペン芯、スリーブの破損対策として
①インク補充などの際に胴軸を必要以上に強く締め付けない
②スリーブのネジ山及び固定金具のねじ山にスレッドコンパウンドなどを塗布しておく
上記2点がオススメです。
ただし②は分解する必要がある為、保障を失うリスクがあります。
初期型のP`3110でもしインク漏れがあった場合は既に破損している可能性が高く
胴軸を強く締め付けるのはダメージの拡大させるのでNG
その場合はお店に持ち込みで修理を依頼するが無難かと。
完全復活 |
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